ルカツィテリは、ワイン造りの起源とされるコーカサス地方が起源とされ
特にジョージアにおいて、最も古くから存在し、今なお絶大な重要性を持つ白ブドウ品種です。
ルカツィテリの基本情報
歴史はジョージアのワイン文化そのものと深く結びついており、この品種なくしてジョージアワインを語ることはできません。
その驚くべき歴史、詳細な特性、そして数値に裏付けられた存在感をご紹介。
名称の由来
ルカツィテリという名前は、
ジョージア語で「ブドウの木」を意味する「Rka(ルカ)」
「赤い」を意味する「tsiteli(ツィテリ)」
の組み合わせに由来しており、「赤い茎」を意味します。
これは、生育期にブドウの茎や葉柄の一部が印象的な赤みを帯びる品種特性にちなんだものです。
また、特に乾燥した畑で栽培されたブドウの果皮が赤みを帯びることも、この名前の由来に関連するとも言われています。
原産地
ジョージア東部の肥沃なカヘティ地域が原産地であると広く認識されています。
現在では、カヘティ地方とカルトリ地方を中心に、ジョージア国内の主要なワイン生産地域全土で広く栽培されています。
その適応性の高さから、異なるテロワールでも品質を保ちながら育つことができます。.
栽培特性
晩芽(春の芽吹きが遅い)の品種であり、この特性のおかげで春先の遅霜による新芽の凍害リスクを自然に回避できるという大きな利点があります。
耐寒性が非常に強く、冬にはマイナス20度以下の厳しい寒さに見舞われることもある東ジョージアの内陸性気候にも十分耐えることができます。
また、べと病や灰色かび病といったブドウの主要な病害に対しても比較的強い耐性を示し、栽培の手間が比較的かかりにくい品種とされています。
温暖で湿度が低い東ジョージアの環境が最も適していますが、水はけの良い様々な土壌や条件下にも順応して育つ丈夫さを持ち合わせています。

数値が語る、ルカツィテリの揺るぎない歴史と支配力
ジョージアは、約8000年前に世界で初めてワインが造られた「ワイン発祥の地」として広く認められています。
この驚異的な歴史は、紀元前6000年頃に遡る土器の破片からブドウの酸である酒石酸の痕跡が発見されたことなど、確固たる考古学的証拠によって裏付けられています。
ルカツィテリは、このような人類最古のワイン造りの時代から既に存在し、連綿と栽培されてきた極めて歴史の古い品種の一つであると考えられています。
特に20世紀においては、ルカツィテリはソビエト連邦のワイン産業において圧倒的な地位を確立しました。その高い収量と安定した品質が、当時の計画経済における大量生産のニーズに合致したためです。
1978年時点では、ソ連国内で栽培されていたブドウ品種全体の実に18%、具体的な栽培面積としては約15万ヘクタール以上をルカツィテリが占めていました。
これは、ルカツィテリが単にジョージア国内だけでなく、ウクライナ、モルドバ、中央アジア諸国など、ソ連邦内の各地で集中的に植えられていたことを意味します。
一説には、この時期において、ルカツィテリはシャルドネやメルローといった国際品種を凌駕し、世界の白ワイン品種の中で最も広く栽培されていた品種であった可能性すら指摘されています。
しかし、1980年代半ばのミハイル・ゴルバチョフ書記長によるアルコール消費削減キャンペーン、通称「ドライロー」は、ソ連各地のブドウ畑に壊滅的な影響をもたらし、ルカツィテリも例外なく多くの面積が破棄されました。
この困難な時代を経て、ソ連崩壊後の市場経済への移行や国際品種の台頭により、かつてのような圧倒的な栽培面積は失われましたが、
ルカツィテリはジョージアのワイン文化において依然として揺るぎない中心的品種としての地位を保ち続けています。
多様な醸造スタイルが生み出す魅力的な味わい
その高いポテンシャルと順応性により、醸造方法によって全く異なる、しかし常に魅力的な表情を見せる品種です。
ブドウが持つ最も重要な特徴の一つは、温暖な気候条件下でもその自然な高い酸度をしっかりと維持できる能力です。
この豊富な酸がワインに骨格、フレッシュさ、そして長期熟成のポテンシャルをもたらします。
控えめながらも上品なアロマを持つため、芳香性の高い品種(ムツヴァネ・カフリやキシなど)とブレンドされることで、互いの長所を引き立て合うこともあります。
ヨーロッパ式
温度管理されたステンレスタンクなどで果皮との接触を最小限に抑えて醸造された場合、ルカツィテリは非常にフレッシュでクリスピーな辛口白ワインとなります。
色は淡いストローイエローで、香りには柑橘類(レモン、グレープフルーツ)、青リンゴ、マルメロといったクリアな果実のアロマが主体となります。
品種によっては、白い花やハーブ、ミネラルのニュアンスも感じられます。ボディはライトからミディアムで、その活き活きとした酸味は口中をリフレッシュさせ、特に若いうちにその清涼感を楽しむのに最適です。
クヴェヴリ製法
ジョージアの伝統的なクヴェヴリを用いて、果皮、種子、時には梗も含めて長期間醸しを行うと、ルカツィテリは驚くほどリッチで複雑なワインへと変化します。
色は濃い黄金色から琥珀色(オレンジ)となり、香りにはアプリコット、オレンジピール、ドライフルーツ(干し柿、ビワ)といった熟した果実やドライフルーツの要素が強く現れます。
さらに、クルミ、タバコ、スパイス(コリアンダー)、紅茶、ドライハーブのような複雑なニュアンスが加わります。

果皮からのタンニンとフェノール成分がワインにしっかりとしたストラクチャーと深みを与え、ミディアムからフルボディの力強い味わいとなります。このスタイルは、ルカツィテリの秘められたポテンシャルを引き出し、世界中のワイン愛好家を魅了しています。
ルカツィテリの多才さは、そのワインスタイルの幅広さにも見て取れます。最も一般的なのは辛口のスティル白ワインですが、ブドウの高い糖度を活かした半甘口や甘口ワインも造られています。
また、そのキリッとした酸とバランスの良さは、スパークリングワインのベースとしても非常に適しており、ジョージア国内で生産されています。
さらに、ジョージアの伝統的な酒精強化ワインであるPDOカルデナヒの主要品種の一つであり、独特の風味を持つポートワインやシェリーに似たスタイルに貢献しています。
ワイン製造以外にも、ジョージアの蒸留酒であるチャチャの原料として利用されるほか、その甘くジューシーな果実は生食用としても広く消費されています。
カヘティ地方の有名な辛口白ワインであるツィナンダリは、ルカツィテリを主要品種とし、ムツヴァネ・カフリをブレンドして造られることで、ルカツィテリの骨格とムツヴァネのアロマが融合した素晴らしいハーモニーを生み出しています。
現代ジョージアワインにおけるルカツィテリの地位
ソビエト時代の大量生産のイメージから国際市場での評価が停滞した時期もありましたが、近年のクヴェヴリワインや自然派ワインへの関心の高まりと共に、品種としての優れた品質とユニークな個性が世界的に再評価されています。
現在、ルカツィテリはジョージア国内で最も広く栽培されているブドウ品種であり、国内の全ブドウ畑面積のうち約35%(約7,000ヘクタール以上)を占め、年間総ワイン生産量の約54%を担っています。
この数値はジョージアワイン産業において経済的にも文化史的にもいかに圧倒的な存在であるかを明確に示しています。
ジョージア国内に認定されている29のPDO(原産地名称保護)のうち、実に10のPDOでルカツィテリは主要品種として認められており、特定のテロワールの個性を表現するワイン造りに不可欠な存在となっています。
最大の強みは、その古代からの歴史と、厳しい環境への耐性、高い収量を安定して供給できる能力、そして収量が多くても品質が落ちにくいという稀有な特性の組み合わせにあります。
加えて、高い酸度を保ちつつ多様なスタイルに適応できる順応性の高さは、他の多くの国際品種には見られないユニークな個性です。
特にクヴェヴリで醸されるルカツィテリは、世界の他の白ワインにはない複雑さ、テクスチャー、そして深い風味を持ち、ジョージアのワイン文化の真髄を体現しています。
その活き活きとした酸と豊富なフェノールは、優れた熟成能力をもたらし、長期間の瓶熟成を経てさらに複雑で奥深い味わいへと進化します。
National Wine Agency of Georgiaの公式サイトでもルカツィテリの詳細をチェックできます!
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ルカツィテリってどういう意味?“赤い茎”なのに白ワイン用?
名前はジョージア語で“赤い茎”を意味しますが、果実は白ブドウ。むしろその語源は茎の色合いに由来すると考えられており、白ワインとして使われる珍しい命名の品種です
歴史がすごいらしいけど、どのくらい古いの?
ルカツィテリは紀元前から続くジョージア最古級の白ブドウ品種で、発掘された粘土壺には約8,000年前の痕跡が。世界最古の醸造遺産を体現する品種です
飲み口はどんな感じ?
シャープな酸味とリンゴやクインス、白桃のフルーティーさが融合したすっきり味。控えめな果実感と爽やかさが、飲みやすく日常的にも適した白ワインです
クヴェヴリで造るとどう変わるの?
クヴェヴリで皮を含めて発酵すると、タンニンやスパイス感が加わり、琥珀色や複雑なアロマが増す“オレンジワイン”スタイルに進化します
今はジョージア以外でも栽培されてるの?
はい、東欧からアメリカ(ニューヨーク州指の湖地域など)、オーストラリアまで広がり、世界各地で試験的にも栽培されています
かつて世界で最も広く植えられた白ぶどうだった?
かつてソ連時代には、世界全体の白ワイン生産の18%がルカツィテリ。非常に栽培面積が広く、市場でも重要な役割を担っていました