ジョージアワイン界隈でも近年人気が急上昇している自然派のペットナット。
スパークリングワインの世界には、伝統的な製法で作られる格式高いシャンパン。
対照的な二つの発泡ワインが存在します。本記事では、これら二つのスパークリングワインの違いを製法、歴史、味わい、法的規制など、さまざまな側面から詳しく解説していきます。
ペットナット・シャンパンの名称と定義の違い
シャンパン(シャンパーニュ)
「シャンパン」という名称は、厳格に保護された原産地呼称です。フランスのシャンパーニュ地方で生産され、AOC(原産地統制名称)規定に則って製造されたスパークリングワインのみがこの名称を名乗ることができます。
-
地理的制限
フランスのシャンパーニュ地方の特定地域でのみ生産可能 -
使用可能品種
シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・ムニエなど指定された品種のみ -
製法規定
伝統的なシャンパーニュ製法(メトード・トラディショネル)での製造が必須
ペットナット(ペティアン・ナチュレル)
ペットナットは「Pétillant Naturel(ペティアン・ナチュレル)」の略称で、「自然な発泡」を意味します。特に原産地や製法について厳格な法的制約はなく、世界中で多様なスタイルが生み出されています。
-
地理的制限
世界中で生産可能 -
使用可能品種
制限なし -
製法
アンセストラル方式(田舎方式/祖先方式)が一般的だが、明確な規定はない
歴史的背景の違い
シャンパンの歴史
歴史は古く、ブドウ栽培はガロ=ローマ時代(紀元1世紀)にまで遡ります。発泡性ワインとしての進化は主に17~18世紀に起こりました。
- 16~17世紀:シャンパーニュ地方では非発泡性の白ワイン生産が主流
- 1668年:ドン・ピエール・ペリニヨンが修道院に着任し、ブレンド技術研究を開始
- 1685年頃:コルク栓の導入
- 1770年:強化されたより厚いボトルの使用開始
- 1800年代:ルイ・パスツールの酵母研究(1860年)により醸造理論が確立
- 1935~36年:AOCシャンパーニュが制定され、生産方法と原産地が法的に保護
シャンパンは貴族や王室との関わりが深く、格式高い飲み物として発展してきました。

ペットナットの歴史
興味深いことに、ペットナットの製法はシャンパンの製法より古く、実際にはシャンパンの元となった醸造法です。
- 1670年以前:発泡性ワインはすべてペットナットのようなアンセストラル方式で生産
- 近現代: ナチュラルワインの流行と共に、この古い製法が再評価され復活
- 2000年代以降:世界中のナチュラルワイン生産者がこの方法を採用し始め、ペットナットという呼び名も広まる
- 現在:ナチュラルワインムーブメントの人気と共に急速に支持を拡大中
「原点回帰」を目指した、伝統的かつ素朴な製法による発泡ワインと言えます
製法の根本的な違い
シャンパンの製法(メトード・トラディショネル/シャンパーニュ製法)
シャンパンは非常に精密で複雑な工程を経て製造されます。
- 一次発酵:収穫したブドウを圧搾し、完全に発酵させて「ベースワイン」を作る
- アサンブラージュ(ブレンド):複数の畑や年のベースワインを厳選しブレンド
- ティラージュ:ベースワインに糖分と酵母を添加し、瓶詰め
- 二次発酵:瓶内で二次発酵を起こし、発生した二酸化炭素を瓶内に閉じ込める(約5-6気圧)
- 瓶内澱熟成:最低15ヶ月(ノン・ヴィンテージ)、ヴィンテージは最低3年間の瓶内熟成
- ルミュアージュ(動瓶):瓶を回転させながら傾け、澱(酵母の残骸)を瓶口に集める
- デゴルジュマン(澱抜き):瓶口を凍結させ、澱を氷の塊として取り除く
- ドザージュ:糖分を含むリキュール(リキュール・デクスペディション)を添加し、甘さを調整
- コルク打栓:コルクとワイヤーでしっかり密閉
この製法は「瓶内二次発酵法」と呼ばれ、均一で安定した品質のスパークリングワインを生み出します
ペットナットの製法(アンセストラル方式)
ペットナットはよりシンプルで自然なプロセスで製造されます。
- 一次発酵開始:収穫したブドウを圧搾し、発酵を開始
- 途中瓶詰め:発酵が完全に終わらないうちに(残糖がまだ残っている状態で)ワインを瓶詰め
- 瓶内発酵継続:瓶内で一次発酵が継続し、二酸化炭素が自然に発生
- 王冠打栓:多くの場合、コルクではなく王冠(クラウンキャップ)で密閉
- 澱の扱い:多くの場合、澱引きを行わず、そのまま瓶詰め
ペットナットは「一回の発酵で泡を生み出す」という点でシャンパンと根本的に異なり、製法的にシンプルである分、醸造家の技術と経験による微妙な調整が重要となります
味わいと特徴の違い
シャンパンの味わいと特徴
- 泡の質:細かくクリーミーな泡立ち、持続性が高い
- ガス圧:3気圧以上(通常5-6気圧)
- 味わい:熟成による複雑さ、ブレンドによるバランス、リザーヴワインの深み
- アルコール度数:平均12-13.5%
- 清澄度:澄んでいる(澱抜き済み)
- 熟成ポテンシャル:長期熟成に適した構造を持つ
シャンパンは長い熟成期間と精密な製造プロセスにより、複雑で奥深い風味が特徴です。
スタイルや価格帯によって味わいも異なり、税抜6千円台のエントリーレベルでは果実味豊かでピュアな味わい、1万円台では繊細さと熟成感のバランス、3万円以上のプレステージュキュヴェでは複雑味と長熟ポテンシャルが感じられます
ペットナットの味わいと特徴
- 泡の質:やや大きめで自然な泡、持続性は控えめ
- ガス圧:1〜3気圧(シャンパンより低め)
- 味わい:フレッシュでフルーティ、自然な果実味が前面に出る
- アルコール度数:平均10%前後(シャンパンより低め)
- 清澄度:多くの場合、濁りがあり澱が残っている
- 熟成ポテンシャル:基本的に若飲みを想定
ペットナットは「澱(おり)を残したまま」「フィルター処理なし」「添加物なし」というナチュラルな特徴から、日本語では「自然派微発泡ワイン」とも呼ばれます。その風味はブドウ本来のピュアな果実味と、ジューシーな旨味が感じられます

法的規制と名称保護の違い
シャンパンの法的保護
シャンパーニュは世界でも最も厳格に保護された原産地名称のひとつです。
- 1887年:アンジェ控訴裁判所がシャンパーニュ地方産ワインのみに「シャンパーニュ」名称使用を認める判決
- 1935-36年:フランスでAOC(原産地統制名称)制度が創設され、シャンパーニュが法的に保護
- 1941年:シャンパーニュ地方ワイン生産同業委員会(シャンパーニュ委員会)の設立
- 現在:130か国以上でシャンパーニュの名称が法的に保護されている
シャンパーニュ委員会は、市場監視や訴訟提起などを通じて世界中での名称保護活動を精力的に行っています
ペットナットの法的規制
ペットナットには具体的な法的規制はなく、明確なルールが存在しません。
- 定義:特定の法的定義はなく、アンセストラル方式を採用することが多いが造り手によって異なる
- 表示規制:一般的なワインラベル表示規則以外の特別な規制はない
- 製法規制:法的に定められた製法規制はない
この自由度の高さが、ペットナットの多様性と創造性を生んでいるとも言えます
価格帯と市場での位置づけ
シャンパンの価格帯
高級スパークリングワインの象徴として、比較的高価格帯に位置します。
- エントリーレベル:税抜6,000円前後
- スタンダードクラス:税抜1万円〜2万円前後
- プレスティージュ・キュヴェ:税抜3万円以上(特に高級なものは10万円以上)
著名メゾンの例:ルイ・ロデレール、サロン、ドン・ペリニヨン、クリュッグなど
ペットナットの価格帯
手頃な価格帯から、希少性の高い生産者のものまで幅広く存在します。
- 一般的な価格帯:2,500円〜5,000円
- 高品質な物:5,000円〜8,000円程度
- 特に人気の高い生産者や希少なもの:8,000円以上
日本市場では、特に3,000円前後の価格帯の商品が人気を集めており、「入荷情報を流すとその日のうちに売り切れる」ほど需要が高いものもあります
日本市場での位置づけと人気
シャンパンは日本でも高級スパークリングワインとしての地位を確立しています。
- リッチなイメージ:特別な場や祝い事、贈答用として定着
- 流通:高級百貨店、専門店、高級レストランで主に提供
- 消費スタイル:フォーマルな場での消費が中心
日本におけるペットナット
日本ではここ数年、自然派ワインブームとともにペトナットの人気が急上昇しています。
- カジュアルな親しみやすさ:日常使いに向いた気軽なスタイル
- 若い世代の支持:特に20〜30代のナチュラルワイン愛好家から支持
- 流通:自然派ワイン専門店やワインバーを中心に広がりつつある
- 国内生産:日本国内のワイナリーでもペットナット製法を採用する生産者が増加中
ペットナットは「ワインは苦手だけどペットナットは飲める!」と評される程、入門者でも飲みやすいと言われています
主な違い|比較表
項目 | シャンパン(シャンパーニュ) | ペットナット(ペティアン・ナチュレル) |
名称定義 | 法的に保護された原産地呼称 | 製法を表す一般名称 |
製造地域 | フランスのシャンパーニュ地方のみ | 世界中どこでも可能 |
主な製法 | 瓶内二次発酵法(メトード・トラディショネル) | アンセストラル方式(一次発酵途中の瓶詰め) |
発泡の仕組み | 完成ワインに糖分と酵母を添加して二次発酵 | 一次発酵中のワインを瓶詰めし自然発酵を継続 |
ガス圧 | 3気圧以上(通常5-6気圧) | 1-3気圧 |
澱の扱い | 澱引き(デゴルジュマン)を行う | 多くの場合澱をそのまま残す |
添加物 | ドサージュ(後補糖)あり | 基本的に無添加 |
アルコール度数 | 平均12-13.5% | 平均10%前後 |
熟成期間 | 最低15ヶ月(ノン・ヴィンテージ) | 特に規定なし(短期間が多い) |
味わい特徴 | 複雑さ、深み、精緻さ | フレッシュさ、果実味、自然な風味 |
栓の種類 | コルク栓とワイヤー | 王冠(クラウンキャップ)が一般的 |
主な価格帯 | 6,000円〜(高級品は数万円以上) | 2,500円〜5,000円程度 |
法的規制 | AOC/AOP等で厳格に規制 | 特に規制なし |
まとめ
共に発泡性ワインとして愛されていますが、その歴史、製法、味わい、価格帯、そして楽しみ方まで、多くの面で対照的な特徴を持っています。
シャンパンは何世紀にも渡る伝統と精緻な技術、厳格な法的保護のもとで発展してきた、格式高い高級スパークリングワインです。
一方、ペットナットは実はその歴史的起源はシャンパンよりも古いにも関わらず、近年のナチュラルワインブームとともに再発見された、より自然でカジュアルなスタイルの発泡ワインと言えるでしょう。
どちらが優れているということではなく、それぞれの個性と魅力があります。場面やシチュエーション、また個人の好みに合わせて、この二つの異なる発泡ワインの世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。
口当たりや泡感ってどう違う?
ペットナットは控えめで柔らかな泡立ちが特徴。軽めの発泡と低アルコール(約9–12%)で、洋梨やリンゴのフルーティーさが際立ちます。対するシャンパンは、微細な泡と深い香味、厚みのある熟成感が魅力です
見た目が濁っているのは普通?
はい。ペットナットは澱(おり)を取り除かない非ろ過所以により、やや曇りがかった見た目が一般的。ワインの個性や「生きた味わい」を象徴する演出でもあります
原材料や品種の自由度は?
ペットナットは法的制限がほとんどなく、どんなぶどうでも自由に使えます。一方、シャンパンはシャルドネやピノ・ノワールなど限られた品種のみ使用が許されており、原産地呼称にも厳しい規制があります
価格帯はどれくらい違うの?
低価格帯で、1本あたり¥2,000〜¥4,000程度が相場。一方、品質と製造にコストがかかるシャンパンは、スタンダードでも軽く¥10,000以上することが多いです
初心者にはどちらがおすすめ?
ペットナットは個性的でライト、カジュアルな印象で初心者や自然派志向の方におすすめ。シャンパンは複雑で貨幣的な作風に魅力を感じる人に向いています。
ペットナットって何?シャンパンとどう違うの?
ペットナットは瓶内で一次発酵を完結させる自然発泡方式。一方、シャンパンは糖と酵母を加えた二次発酵を瓶内で行い、リムーザン産の熟成を経た複雑な味わいに仕上げます。製法から仕立てまでが全く異なるスパークリングです