サペラヴィ×クヴェヴリ完全ガイド|「黒ワイン」熟成の秘密

サペラヴィとクヴェブリから生まれる赤ワインはご存知ですか?グラスの向こう側が全く見えないほどの、深い漆黒。そのため黒ワインと言われることも!

「赤ワインは好きだけど、最近なんだか飲み疲れてしまう」
「教科書通りのワインにはもう飽きてしまった」

この機会に「黒ワイン」はどうですか?

この記事では、ワイン愛好家が「最後のワイン聖地」と呼ぶジョージアのワイン、特に「サペラヴィ品種」と「クヴェヴリ製法」の組み合わせが生み出すワインについてお話します。

なぜ「サペラヴィ」と「クヴェヴリ」?

ワインの世界には「カベルネ・ソーヴィニヨン×オーク樽」のような王道の組み合わせが存在します。
しかし、「サペラヴィ×クヴェヴリ」ほど、素材と器が互いを高め合い、神秘的な化学反応を起こすペアは他にありません。まずは、この二つの主役について深く掘り下げてみましょう。

ジョージアのブドウ畑でサペラヴィを熟成するクヴェヴリとオーク樽

サペラヴィ|葡萄の王様の潜在能力を解剖

ジョージアには500種類以上の土着品種が存在しますが、その頂点に君臨する品種がサペラヴィです。

「テュントゥリエ」がもたらす抗酸化力

サペラヴィの最大の特徴は、その色の濃さにあります。
一般的な黒葡萄(例えばメルローなど)は、皮を剥くと中の果肉は白っぽい色をしています。しかし、サペラヴィは違います。皮を剥いても、中から血のように真っ赤な果肉が現れるのです。

専門用語で「テュントゥリエ(Teinturier)=染色」と呼ばれるこの珍しい特性こそが、サペラヴィの正体です。
果肉まで赤いということは、それだけ桁外れのポリフェノール(アントシアニン)が含まれているということ。この強力な抗酸化物質のおかげで、サペラヴィは酸化しやすい「クヴェヴリ(土器)」での醸造においても劣化することなく、むしろその時間を味方につけて熟成することができるのです。

果肉まで赤いサペラヴィ種のブドウ

酸度(Acidity)こそが長寿の鍵

また、サペラヴィは完熟しても非常に高い「酸度」を維持できる稀有な品種です。
ワインにおいて、酸は「背骨」のようなもの。高い酸があるからこそ、濃厚な果実味やタンニンがあっても飲み疲れせず、食事の脂をスッキリと流してくれます。

そして何より、この酸が天然の防腐剤となり、10年、20年という長期熟成を可能にします。
「黒ワイン」と呼ばれるほどの濃厚さを持ちながら、余韻は驚くほどエレガント。それがサペラヴィの魔法なのです。

クヴェヴリ|巨大な粘土壺の科学と哲学

次に、この葡萄を受け止める器、「クヴェヴリ」についてお話しします。

呼吸する器、クヴェブリ:マイクロ・オキシジェネーション効果

クヴェヴリは素焼きの土器であり、内側は蜜蝋で薄くコーティングされています。
ステンレスのタンクとは異なり、土の壁を通してごく微量の酸素を透過させます。これを「マイクロ・オキシジェネーション(微細な酸素供給)」と呼びます。

樽熟成に似ていますが、決定的な違いは「木の香りがつかない」こと。葡萄本来の香りを邪魔することなく、酸素の力だけでサペラヴィの荒々しいタンニンを丸くし、角の取れた柔らかな舌触りへと変化させるのです。

地中に埋めたクヴェヴリで発酵するサペラヴィの醸造風景

地中熟成が生む「温度のゆりかご」

クヴェヴリは地中に埋められています。ジョージアの地中は、年間を通して13〜15度という、ワイン熟成にとって理想的な温度に保たれています。外気温が変わっても、土の中は常に安定しているため、ワインはストレスを感じることなく、ゆっくりと時間をかけて発酵・熟成します。
この「大地のゆりかご」で眠る時間が、サペラヴィに独特の深みと静寂をもたらすのです。

先端が尖った形状(Physics of Shape)の秘密

クヴェヴリの底が尖っているのには、物理学的な理由があります。
発酵が終わると、葡萄の種や皮は底に沈んでいきます。底が尖っているため、沈殿物が一点に集まり、接触面積が最小限になります。これにより、ワインの上澄み部分はクリアに保たれ、苦味が出過ぎるのを自然に防いでいるのです。
8000年前の人々は、経験則としてこの「自然の濾過システム」を知っていたのでしょう。

サペラヴィ×クヴェブリの生産者|チュリチネブリ

今回ご紹介するワインを作るワイナリーの名は、「チュリチネブリ-Churi Chinebuli」
少し覚えにくい名前かもしれませんが、この言葉には彼らの誇りと哲学が詰まっています。ジョージア語の意味を知ると、ワインの味わいがより深く感じられるはずです。

ジョージアワインの人気のワイナリーの ChuriChinebuliのワインボトルとロゴ

東の「クヴェヴリ」、西の「チュリ(Churi)」

私たちが普段「クヴェヴリ」と呼んでいるこの壺ですが、実はジョージア国内でも呼び名が異なります。ワインの大産地である東部カヘテ)ィ地方では「クヴェヴリ」と呼びますが、西部イメレティ地方では「チュリ(Churi)」と呼びます。

チネブリ(Chinebuli)=Excellence(卓越)

そして「チネブリ(Chinebuli)」とは、ジョージア語で「素晴らしい」「卓越した」「高貴な」という意味を持ちます。また、ジョージア独自の白葡萄品種の名前でもあります。
つまり「チュリチネブリ」とは、「最高の壺」や「卓越したワイン造り」といった意味が込められた、品質への自信に満ちた名前なのです。

【実飲】サペラヴィ×クヴェブリの味わい比較!

お待たせいたしました。それでは、この名門ワイナリーが手掛ける2本のサペラヴィを実際に飲み比べてみましょう。

同じ「サペラヴィ」という葡萄、同じ「クヴェヴリ」での発酵を経ながら、その後の育て方(熟成)を変えることで、驚くほど異なる個性が生まれます。

あなたは、どちらの「黒ワイン」に惹かれるでしょうか?

比較の前に:チュリチネブリ(Churi Chinebuli)というワイナリー

  チュリチネブリは、ジョージアの伝統的な製法を守りながらも、現代的な衛生管理や品質管理を徹底しているワイナリーです。彼らのワインは、クヴェヴリワインにありがちな「不安定さ」や「強すぎるクセ(オフフレーバー)」が一切なく、非常にクリーンで洗練されています。
「野性味」と「上品さ」が同居する、まさに大人の女性におすすめしたい作り手です。  

大地の記憶を飲む「サペラヴィ・クヴェヴリ」

まず1本目は、何も足さない、何も引かない。サペラヴィとクヴェヴリです。

ノン・オークが証明する「土と葡萄」の純愛

このワインは、クヴェヴリで発酵・熟成され、木樽を一切使用していません。
グラスに注ぐと、紫がかった濃いルビー色。
香りを嗅ぐと、樽の香り(バニラなど)がない分、サペラヴィ本来の香りがダイレクトに飛び込んできます。完熟したプラム、ブラックベリー、ダークチェリー。そしてその奥に、クヴェヴリ由来の**「雨上がりの森」「素焼きの陶器(テラコッタ)」**のような、湿り気を帯びたミネラルの香りを感じます。

サペラヴィ×クヴェヴリの香りを表す黒系果実

テクスチャーの秘密:ベルベットのような舌触り

口に含むと、驚くのはその舌触りです。
フィルターを通しすぎていないため、液体に厚みがあり、少しとろみさえ感じます。クヴェヴリ内での自然対流によって、旨味が層のように重なっているのです。
タンニンはしっかりと感じられますが、決して「渋い!痛い!」という感じではありません。土器が角を取ってくれているため、上質なベルベットの布地を撫でているような、心地よい摩擦感があります。

このワインが語りかけるストーリー

これは、8000年前のジョージアの宴(スプラ)にタイムスリップするようなワインです。
電気も機械もなかった時代、人々が土から掘り出した壺から柄杓ですくって飲んでいた、あの原始的で力強いエネルギー。
「今日は化粧も落として、ありのままの自分に戻りたい」。そんな夜に、心に寄り添ってくれる1本です。

クヴェヴリ壺、樽熟成、サペラヴィ葡萄を並べた構図

「サペラヴィ・クヴェヴリ・フレンチオーク」の樽熟成の

2本目は、伝統の上に現代の美学を重ねた、ハイブリッドな傑作です。

なぜ「フレンチオーク」を6ヶ月足したのか?

こちらは、クヴェヴリでの発酵・熟成を終えた後、さらにフレンチオーク樽に移し替えて6ヶ月間熟成させたワインです。
「せっかくのクヴェヴリなのに、なぜ樽に入れるの?」と思われるかもしれません。
しかし、これは伝統の否定ではなく、進化です。クヴェヴリで葡萄の「骨格」と「大地のエッセンス」を形成した後、フレンチオークで「ドレスアップ」させる。いわば、すっぴんの美人に、洗練された香水を纏わせるようなアプローチです。

ここで重要なのは、香りの強いアメリカンオークではなく、繊細なスパイス感を持つ「フレンチオーク」を選んでいる点です。サペラヴィの個性を殺さず、引き立てるための選択です。

香りの化学反応:バニラと黒果実

グラスに鼻を近づけると、先ほどのワインとは全く違う表情を見せます。
サペラヴィの黒い果実味に、樽由来のバニラ、シナモン、クローブ、ローストブレッドが複雑に絡み合っています。
口に含むと、クヴェヴリ特有の旨味はそのままに、余韻に甘く香ばしいニュアンスが長く続きます。
野性的なサペラヴィが、一気に洗練された「グラン・ヴァン(偉大なワイン)」へと昇華しているのを感じるでしょう。

クヴェヴリ由来の厚みあるサペラヴィに重なる黒果実、バニラ、シナモン、クローブ、ローストブレッド

飲み頃と長期熟成ポテンシャル

樽のタンニンが加わることで、構造はより強固になっています。
今飲んでも十分に美味しいですが、このワインには10年、20年先まで熟成できるポテンシャルがあります。ボルドーワインがお好きな方や、しっかりとしたフルボディのワインを探している方には、間違いなくこちらがおすすめです。

ペアリング|サペラヴィ×クヴェブリと合う料理

お気に入りの1本は決まりましたか?
最後に、この特別なワインを自宅で最高に楽しむための「ペアリング」をご紹介します。

クヴェヴリワインを開かせる

クヴェヴリワインは、地中の壺という密閉された環境で育っているため、抜栓直後は香りが閉じこもっている(還元状態にある)ことがあります。
飲む30分〜1時間前には抜栓し、味の変化を楽しみながら飲み時を探ってください!眠っていたワインが目を覚まし、閉じ込められていた果実や花の香りが一気に開花します。

和の食卓にも馴染むサペラヴィの深いルビー色。

温度は「少し高め」が正解

冷蔵庫でキンキンに冷やすのはNGです。冷たすぎると渋みが強調され、せっかくの複雑な香りが消えてしまいます。
16℃〜18℃(常温より少し涼しいくらい)がベスト。温度が上がるにつれて変化していく香りのグラデーションを楽しむのも、サペラヴィの醍醐味です。

サペラヴィ×クヴェヴリに合う料理

ジョージアには「スプラ」と呼ばれる盛大な宴会文化があります。そこでは肉、ハーブ、胡桃(くるみ)を使った料理が並びます。日本の食卓で再現するなら、以下の組み合わせがおすすめです。

ノン・オーク× 日本の発酵調味料

土器で作られたこのワインには、同じく「発酵」のニュアンスを持つ日本の調味料がよく合います。

  • 豚の角煮(八角を入れると最高): 醤油のコクと豚の脂を、ワインの酸が切ってくれます。
  • 味噌おでん・牛すじ煮込み: 八丁味噌のような濃い味噌の風味は、クヴェヴリの土っぽい香りと共鳴します。
  • スパイスカレー: クミンやコリアンダーを使った、少し土臭いスパイス料理とも相性抜群です。
ササペラヴィに合う豚の角煮と半熟卵、八角の香り

② フレンチオーク熟成 × 炭火・焼きの香ばしさ

樽のロースト香を持つこのワインには、「焼き目」をつけた料理を合わせてください。

  • ジビエのグリル(鹿・羊): ラムチョップや鹿肉のステーキ。野性味のある肉に、ベリーソースをかける感覚でこのワインを飲んでみてください。
  • すき焼き: 牛肉の旨味と割下の甘みを、樽の香りが優雅に包み込みます。
すき焼き鍋とサペラヴィのマリアージュ

クヴェヴリのメンテナンス:知られざる職人の苦労

(※ここだけの少しマニアックな話)

美味しいワインの裏側には、想像を絶する職人の努力があります。
最後に、このクヴェヴリという壺を維持することがいかに大変か、少しだけお話しさせてください。

クヴェブリを掃除する道具「サツヘハイ(Satskhekhi)」と「ルミ(Rumi)」

狭い口から入って洗う命がけの作業

クヴェヴリは巨大ですが、入り口は人が一人やっと入れるほどの大きさしかありません。
ワインを排出した後、「メクヴェヴレ」と呼ばれる専門の職人が、この狭い口から中に入り、内壁を掃除します。
使うのは「サツヘハイ(Satskhekhi)」と呼ばれる、桜の木の皮や特別な植物で作ったブラシ。洗剤は使いません。水とこのブラシだけで、何時間もかけて内壁の酒石酸や汚れを削ぎ落とします。

ジョージアの地下に保存するクヴェヴリの壺

あなたはどちらの「黒」を選ぶか?

8000年の歴史、土器の神秘、そして作り手の情熱。
サペラヴィとクヴェヴリの世界は、知れば知るほど奥深く、魅力的!

最後に、チュリチネブリの2本、どちらを選ぶべきか迷っているあなたへ。

純粋さなら「サペラヴィ・クヴェヴリ

もしあなたが、自然派ワイン(ナチュール)が好きで、「ありのままの葡萄の味」「大地のエネルギー」感じたいと願うなら、迷わず「サペラヴィ・クヴェヴリ(ノン・オーク)」を選んでください。
それは、飾らない美しさと、心に染み入る優しさを持った、癒やしの1本です。

完成度なら「サペラヴィ・クヴェヴリ・フレンチオーク

もしあなたが、ボルドーワインのような「リッチな香り」や「洗練された味わい」を好み、週末のディナーを華やかに彩りたいなら、「サペラヴィ・クヴェヴリ・フレンチオーク」が最高!伝統と革新が織りなす、極上の芸術品です。

サペラヴィとクヴェブリについてのよくある質問 (FAQ)

サペラヴィとクヴェヴリの組み合わせが特別視される理由は何ですか?

サペラヴィは果肉まで赤い希少な品種で、強い抗酸化力と高い酸度を持ちます。クヴェヴリは通気性のある土器壺で発酵・熟成し、独特の深みやなめらかさをワインにもたらします。この2つの組み合わせによって、素朴さとエレガンスが両立した唯一無二の赤ワインが生まれます。

サペラヴィ・クヴェヴリワインの最適な飲み頃や温度は?

サペラヴィ・クヴェヴリワインは飲む30分~1時間前に抜栓し、香りと味わいの変化を楽しむのがおすすめです。温度は16℃~18℃程度がベストで、冷やしすぎると渋みが強くなり複雑な香りが消えてしまうため常温より少し涼しいくらいを目安にしてください。

サペラヴィ×クヴェヴリワインに合う日本食はどんなものですか?

ノン・オークのサペラヴィ×クヴェヴリワインには、発酵調味料を使った料理がよく合います。例えば豚の角煮(八角入り)、味噌おでん、牛すじ煮込み、土のニュアンスを感じるスパイスカレーなどが特におすすめです。

フレンチオーク熟成のサペラヴィ・クヴェヴリワインはどんな料理と相性が良いですか?

フレンチオークで樽熟成されたサペラヴィ・クヴェヴリワインには、炭火焼きや焼き目がついたジビエのグリル(鹿や羊)、ラムチョップ、すき焼きなど、香ばしさや肉の旨味が感じられる料理がよく合います。

クヴェヴリ壺のメンテナンスはどのように行われていますか?

クヴェヴリのメンテナンスは専門の職人が、狭い口から中へ入り、専用のブラシ(サツヘハイやルミ)を使って内壁の汚れや酒石酸を手作業で落とします。洗剤などは使わず、水と植物製のブラシのみで何時間もかけて丁寧に洗浄します。

サペラヴィとはどのようなブドウ品種ですか?

サペラヴィはジョージアを代表する黒ブドウ品種で、果肉まで赤い珍しい特徴を持っています。高いポリフェノールと酸度により、濃厚でありながら長期熟成にも耐えるエレガントな赤ワインを生み出します。

クヴェヴリ製法の特徴とメリットは何ですか?

クヴェヴリ製法は素焼きの土器を地中に埋めて発酵・熟成させる伝統的なジョージアのワイン造りです。自然なマイクロオキシジェネーションが起こり、ブドウ本来の旨味やなめらかさ、独特のミネラル感が引き出されます。

「チュリチネブリ」というワイナリー名の意味は?

「チュリチネブリ」はジョージア語で「最高の壺」「卓越した」という意味があり、伝統製法と品質への誇りを象徴しています。西部地方の壺「チュリ」と、優秀さを示す「チネブリ」からなる名前です。

サペラヴィ・クヴェヴリワインのおすすめの飲み方は?

抜栓後すぐよりも30分~1時間ほど置き、香りが立つのを待つのが理想です。温度は16℃~18℃前後で、グラスで少しずつ広がる香りをゆっくり味わうことをおすすめします。

ノン・オークとフレンチオーク樽熟成、選び方のポイントは?

ノン・オークは自然な果実味や土壌の風味をダイレクトに感じたい方に向いています。フレンチオーク樽熟成はリッチで複雑な香りや長期熟成を楽しみたい、しっかりした味わいがお好みの方におすすめです。

author
Watanabe Yuki
WEBライター
author https://gwine.store

旅先で出会ったジョージアワインがきっかけで、ナチュラルワインの世界へ🍇ワインと猫が好き/白よりオレンジ派🍊/ゆるくヘルシーに生きたい30代です。